フダンヅカイ

もくじ
はじめに 多くの人と触れ合う日常
第1回 「いい人、もの」を紹介するウェブマガジン
第二回 覚悟を決めている人にしか言えないこと
第三回 編集は特別なものではない
第四回 芸の道でご飯を食べられるように

第二回 覚悟を決めている人にしか言えないこと

加茂 サイトのコンテンツの話をすると、
田無なおきちインディーズドラゴン祭り
の特集が好きでした。

ああやって、あまり知られていないけど
おもしろそうなイベントを拾うことは
マスメディアではできないことなので。
石川 ああいう記事が書けるのは、
僕が地域紙の編集記者をやっていたからかもしれないです。
地域紙といってもいろいろあると思うんですけど、
僕がいた会社のものは新聞のような紙面内容です。

前身の媒体から数えると50年以上発行し続けていて、
西東京市、東久留米市、小平市、あとは埼玉の新座市という
武蔵野地域と呼ばれているところの一部で
毎週約15万部発行されているものでした。

それに掲載されている記事は、
大手の新聞には載っていないローカルな話題でした。
代表が「地域は国の縮図なのに、
その大事な情報を伝える媒体がない。
だから、うちらが地域の情報を伝えるんだ」
と常々言っていたのが記憶に残っています。

アートやエンタメも雑誌で紹介されている
メジャーな人だけでなく、
もっとたくさんシーンを作っている人がいて。
そういう人たちを紹介するメディアって
必要だなと思ったんです。
だから東京黎明ノートの運営は地域紙をやっているのと
感覚的には似ているかもしれないです。
加茂 地域紙だと極端な話、
人の良いおっちゃんがやってる
お店とかも紹介できますよね。
そして、実際そういう人たちが街を作っているんですよ。
いまお話を聞いていて、
アートやエンタメも同じなのかなと思いました。

まだ名前は売れてないけど才能ある人たちが
色んな場所でシーンを作っている。
東京黎明ノートがその輪郭まで描けたらおもしろそうですね。
石川 「あそこに載ったら箔がつく」
と言われるくらいになりたいですね。
でも、これまでに登場した人たちも現在どんどん活躍していて。

昨年紹介した「奇妙礼太郎トラベルスイング楽団」は
今度フジロックに出ますし(※本取材は7月に行ったもの)、
ウェブ漫画の特集で紹介したONEさんは、
いま裏サンデーととなりのヤングジャンプで
計3本の連載を持つなど活躍の場を広げてきています。
東京黎明ノートで取り上げたことが原因ではなくて、
取材するタイミングが良かっただけなんですけど嬉しいです。
加茂 出世サイトみたいな位置づけですね。
石川 なればいいなと思っています。
そういうイメージを作ることができれば、
うちで紹介した人が注目されるはずなので。
加茂 東京黎明ノートには覚悟を決めている人にしか
言えないことがたくさん載っていますよね。
「普段の仕事があるし」みたいなことがないのが好きです。
石川 たとえばONEさんは漫画家になるぞと
仕事を辞めているんですね。
元々、ウェブ漫画や彼の作品が好きだったんですが、
その様子をTwitterで追っているうちに
熱い思いがこみ上げてきて。

あとは単純に、もっといろんな人に
ONEさんやウェブ漫画のことを知ってほしかったんですけど。
それで取材をお願いしました。
不退転の覚悟でカッコイイじゃないですか。
加茂 確実に長くやり続けると思える人たちが居ると嬉しいですよね。

継続しないと作れない作品ってあるじゃないですか。
途中で悩んだり、やめたくなることがあったりしても
負けずにやり続けてできあがるものってあると思っていて。
それはやっぱり1ヶ月や2ヶ月じゃ出来ないと思うので、

そうやって自分のやりたいことを続けている人たちを
東京黎明ノートでは取り上げているなと感じていて。
いつも読んでて面白いです。
石川 ありがとうございます。
加茂 ちなみに東京黎明ノートを始めて、記事を作っている間に
石川さんの周りの環境って変わりましたか。
石川 たぶん、僕の周りの環境が変わったというよりは、
僕自身が変わったのかなと思います。
今までは会社員として
テーマに縛りのある媒体を作っていたのが、
東京黎明ノートでは自分の意思で
コンセプトそのものから作れるようになりました。

僕が編集者として、紹介する切り口さえ考えられれば
全員が取材対象になるので、
1つ1つの出会いが楽しみになりましたし、
人の話を今までより興味深く聞けるようになりました。
加茂 良い意味で「仕事」になったんでしょうね。
石川 そうですね。なんでも仕事につなげられるというか、
希望を見出せるようになりました。
その分、私生活と仕事とのボーダーラインが
曖昧になった気がします。
加茂 今までの仕事をして身につけた能力は
東京黎明ノートに活かされていますか。
石川 活かされていると思います。
僕はファッション誌と新聞紙という
両極端なものを作ってきたので、
よくいえばいいとこどりができているんです。
ビジュアルで華々しく見せることも出来れば、
新聞みたいにかっちり作ることも出来ますし。

ただ、いくら見せ方がうまくても、
やっぱり一番大事なのはしっかりと取材ができる事です。
文章がどれだけあっても中身がない記事って
いっぱいあるじゃないですか。
そういう意味では新聞の取材経験はかなり大きいですね。
加茂 その経験を生かして、
自分で取材対象を自由に選べるようになったのが大きいと。
石川 元々会社にいる時も裁量は結構あったんですけど、
どうしても媒体の縛りっていうのがありました。
その縛りが東京黎明ノートで無くなったのは大きかったです。
自分が今まで遠く感じていたモノとかが
すごい近くに感じるようになったというか、
可能性が広がりました。

東京黎明ノートではこれからブレイクするよ、
みたいな人を取り上げることと、
もうひとつの側面として
「今の当たり前って本当に当たり前なのかな?」と
疑問を持って変えようとしている人たちを
取り上げていきたいと思っています。
日本って一見、世界レベルで見ると
豊かだと思うんですけど、なんかこの状態って
本当に豊かなのかなと思うところがあって。

うちで紹介したイベントでroomsLINKっていう
ファッション系のイベントがあるんですけど、
僕たち今は着るものには困らないじゃないですか。
そういう意味では豊かですよね。
でも彼らはファッションってそんなに身近なのかな
ということを考えているんです。

「〇〇コレクション」みたいなイベントを開催すると
「セレブが行くんでしょ」、みたいな感じで
みんな一気に引いちゃうじゃないですか。
つまり、文化としてはまだまだ成熟していないというか。
でもroomsLINKというイベントは、
将来東京全体でファッションというのを身近に、
コレクションを楽しんでもらえるようにしようと考えてるんです。
石川 あとは「裏サンデー」という
無料のウェブコミックサイトを運営している人たちもそうです。
漫画家の人たちは今、連載に至るまで
すごく過酷な環境にあるんですけど、
それって本当に良いのかなって考えていて。
連載作品を持てるまでのプロセスを少なくして、
自分が漫画家として生きていけるかいけないのかを
現状より早い段階で判断できる場を作りたい、
システムを作りたいという試みを理由の一つとして
サイトを作ったんです。
加茂 色々な試みがなされているんですね。

(つづきます!)
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