高橋 | 今週は「森の翠(もりのみどり)」をご紹介します。 この日本酒は愛媛県にあった篠永酒造さんが 造っていたお酒なんですが、 篠永酒造さんは経営事情により、 平成21年に廃業してしまいました。 なので、この「森の翠」は 今後二度と新酒を呑むことが出来ないお酒です。 美味しい日本酒を造っていても、 残念ながらその存在をあまり知られることなく 潰れてしまう蔵はあります。 なぜ知られないのかというと、 飲酒量が減っていることも一因にあるのですが、 一つ好きな銘柄ができた人って、 なかなか新しい銘柄を発掘しようとしないんです。 |
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―― | 確かに、自分も日本酒に限らずお気に入りができると、 新しいものを積極的に発掘しなくなることがありますね。 |
高橋 | そうなんです。 で、篠永酒造の杜氏さんは四国初の女性杜氏で、 「いくこの蔵便り」というブログを書いていたんです。 そして最後の記事が「最後の蔵たより」というものなんですが、 読むととても切ない気持ちになってしまって。 このようなことがないよう、 SAKELIFEではみんなが知らない銘酒をどんどん取り上げて、 お届けしていきたいと思っています。 職人さん達はどうしてもプロモーションが苦手だったり、 忙しくて時間を割けなかったりすることが多いので、 お客さんに日本酒の良さを伝えること、 そしてお客さんからの感想を蔵元さんに伝えることが 僕たちが担う重要な役割の一つです。 |
―― | なるほど、この森の翠は、 日本酒を取り巻く環境がわかってくるお酒の一つなんですね。 僕も高橋さんからご紹介いただいた日本酒を飲んで 「こんなに美味しい日本酒があるんだ」 と気づくことができたユーザーの一人なので、 改めてですが週刊SAKELIFEでは こうやっておはなしをしながら、 まだあまり知られていない日本酒の存在を 多くの人に伝えられたらと考えています。 |
高橋 | ありがとうございます。 で、森の翠のご説明をさせていただくと、 この日本酒は袋取り斗瓶囲いという方法で絞られています。 どういう絞り方かというと、 醪(もろみ)を袋に入れて吊るし、 重力で自然に落ちてくる雫を 「斗瓶(とびん)」という瓶に入れるんです。 そして、ここがちょっとややこしいんですが、 斗瓶に入れることが「斗瓶取り」で、 そこから蔵元さんが瓶に入れたまま熟成させ、 一番いい時期に出荷するのが「斗瓶囲い」です。 普通は絞ったお酒はタンクに入れて寝かせて、 出荷する時に瓶詰めすれば一番作業効率が良いんですが、 この森の翠はあえて最初から斗瓶に入れて、 その中で熟成させる方法をとっているんです。 可能な限り人の手を加えないで、 お酒本来の味を残すのが袋絞り斗便囲いです。 |
―― | 美味しい日本酒を造るためにかかる手間を 全部かけたということですね。 ということはこの森の翠、1年に造れる数は それほど多くなかったんじゃないですか。 |
高橋 | 多くはなかったですね。 |
―― | 美味しい日本酒を造りたいけど、 工夫をするとたくさん造れないから、 それが売り上げに影響して… といったジレンマがありそうですね。 |
高橋 | 日本酒の今の価格設定を見ると、 どうしても薄利多売になりやすくなってしまっていて、 価格競争の中では森の翠みたいな日本酒を造る蔵が 生き残っていくのは本当に大変なことなんです。 だから、SAKELIFEは価格競争と関係のないところで、 お客さんに満足してもらえるモデルを 作っていきたいと思っています。 美味しい日本酒をお届けするだけでなく、 もっと楽しく日本酒を飲んでもらうための情報も提供して、 スタッフだけでなくお客さんとも一緒に 付加価値を提供していきます。 |
―― | SAKELIFEがあるおかげで飲み続けることができる、 みたいな日本酒が現れてくると良いですね。 今回ご紹介いただいている森の翠はすでに残り少ないので なかなか飲める機会がないと思うのですが、 参考までにどんな味がするんでしょうか。 |
高橋 | 森の翠は、 旨味の後に、適度な酸が効いているのが特徴です。 酸が強すぎると重くなって次の一杯に進みづらいんですけど、 森の翠はちょうどいい酸の具合で、 舌にかすかに米の旨味と酸味の余韻が残って、 「ああもう、次すぐ飲みたい!」となるお酒です。 |
―― | なるほど。 ちなみにこの森の翠は生産が終了してしまったので 当然ながら熟成酒のカテゴリに入るわけなんですが、 日本酒は熟成させると酸度は強くなるんですか。 |
高橋 | 日本酒は乳酸菌が中に入っているので、強くなりますね。 低温で熟成させると、酸の繁殖を適度に抑えられるので、 キレがあり爽やかな味わいになるんです。 SAKELIFEでは氷温、 数字で言うと-5℃のセラーで日本酒を熟成させています。 |
―― | そんな低い温度で熟成させているんですね。 残り少ないとは思うのですがこの森の翠、 一番良い形で日本酒好きの人に届いて、 楽しんでもらえると良いですね。 |
高橋 | そうですね。日本酒を飲んでもらうことは 蔵の想いを飲んでもらうことでもあるので、 SAKELIFEではその想いの部分を これからも伝えていければと思っています。 |