高橋 | 今週ご紹介するのは 山形県の「出羽ノ雪(無垢之酒)」です。 無垢之酒(むくのさけ)というのは、 「日本名門酒会」という日本で一番大きい卸さんが 出している日本酒のシリーズで、 絞りたての日本酒を各蔵元さんに出してもらって、 それを飲み比べてもらおうという主旨で作られています。 |
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―― | 「純米吟醸生原酒」という 見慣れない名称が書いてあるんですが、 これはどういう意味でしょうか。 |
高橋 | 以前純米吟醸や生酒についてご説明したと思うのですが、 原酒というのは生酒の中でも水を一切加えていないものです。 絞ったお酒に水をあとから1滴も足していない日本酒には 「原酒」という名称をつけることができるんです。 |
―― | ということは、この週刊SAKELIFEで 今までご紹介いただいた生酒は 絞った後に水を加えていたものだったんですね。 |
高橋 | そうですね。水を加えるのは アルコール度数を調整する意味合いがあります。 原酒だと18度以上と高めになってしまうものがあるので、 法律で決められている範囲内で加水して調整するんです。 |
―― | 生酒を名乗るために 加えられる水の量は決められているんですね。 |
高橋 | 足しすぎると普通酒カテゴリーにしか 入らなくなってしまうんです。 純米吟醸とか、そういう表記もできなくなってしまいます。 |
―― | なるほど。となると、原酒はもう本当に 純粋な日本酒の味が楽しめるということですね。 |
高橋 | そうです。ただ、原酒って書くと なんとなく重いイメージを持つ方がいるので、 別に原酒は書いても書かなくても良いんですね。 加水していなければつけてもいいし、 つけなくてもいいよという決まりがあって。 |
―― | ということは、この出羽ノ雪は 原酒であることをアピールしたいということですね。 あと、「あらばしり」というのがあるんですがこれは… |
高橋 | 「あらばしり」についてですが、 まずこの出羽ノ雪は袋絞りで取るんです。 袋に入れて、吊すんですね。 そうすると、もろみが袋の下に落ちて、 そこから原液が落ちてくるんです。 その最初に出始めた部分があらばしりです。 だいたい1割くらいの部分があらばしりと呼ばれていて、 本当に絞ってすぐの段階のものです。 で、このお酒はよく見てもらうと分かるんですが、 色がついているんです。 |
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―― | たしかにちょっと色がついていますね。 黄金色みたいな感じで。 |
高橋 | 日本酒って、できたては 黄金色、山吹色といった感じで色がついているんです。 |
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―― | 普通は透明というイメージがあるんですが、 違うんですね。 |
高橋 | 透明な日本酒は実は炭素濾過させていて、 本当は絞りたてはこの色なんです。 でも今は日本酒は透明じゃないとだめみたいな 固定観念みたいなものがついてしまっていて。 黄金色であることを知っている人はあまりいないんです。 だから色がついた日本酒を見ると 「これはダメだ」と思ってしまうみたいで。 なぜ透明なお酒が中心になったかというと、 戦時中にお米が配給制度だった頃って 良いお酒を造れなかったんですね。 そこで炭素濾過をしたら匂いを抑えることができて、 味が整ってすっきりしたんです。 なのでその時に「透明のお酒が良い」 という印象が強く残ってしまって、 今はこの黄金色のお酒を出すと 「これ腐ってるんじゃないの」とか、 悪い印象を持つようになってしまったんです。 |
―― | 日本酒本来の色をしている方が 不自然に見えるようになってしまったんですね… |
高橋 | 元々の色がこの色で、 こっちのほうが日本酒本来の味を楽しめるんですけどね。 話を戻すと、あらばしりの特徴として、 袋で絞った時にもろみも一緒に勢いよく出てくる時があって、 もろみが少し混じって薄く白く濁っているものがあります。 そして、もろみが袋に詰まると、雫になるんです。 最初は勢いよく袋から出てくるんですが、 次第にもろみが袋の間に詰まっていって、 最終的に雫で取れるようになると。 その雫の部分から「中取り」という名称になります。 |
―― | あらばしりの次は中取りですか。 絞っている間にも名称が変わるんですね。 |
高橋 | そして、袋から雫が出なくなったら 袋の上から押したりして最後まで絞り出すんですが、 それを「責め」と言います。 なので日本酒はあらばしり、中取り、責めという 3つの名称があって、出羽ノ雪は あらばしりだけを詰めたものになります。 |
―― | なるほど…もうすでに色々と勉強になっています。 ちなみに、味については あらばしりが名前通り一番味が荒いんですか。 |
高橋 | 一番勢いがあって、 米のうまみが一番生きているのがあらばしりですね。 で、責めはめったに市場に出ていなくて、 僕はまだ飲んだことがないんです。 責めって一般的な文章では 「美味しくない」と言われているんですが、 先日SAKELIFEのイベントでお客さんから 「あらばしり、中取り、責めの全てを出している 蔵元さんがある」と教えてもらいました。 そこのお酒は責めが一番美味しかったと言っていましたね。 |
―― | そう聞くと、責めも飲んでみたいですね。 ちなみに3種類を全部混ぜているものもあるんですか。 |
高橋 | だいたいの日本酒は3種類全てを混ぜたものを売っています。 でも、出羽ノ雪は敢えてあらばしりだけを詰めています。 できたて、生まれたての味なので、 「無垢之酒」というシリーズになっているんですね。 |
―― | そういう考えって素敵ですね。 ネーミングにセンスがあるというか。 |
―― | 飲んでて感じるんですが、 原酒というだけあってすごい力強い味ですね。 |
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高橋 | なので、荒すぎた場合は熟成させて 味を落ち着かせてから飲むのも良いですね。 これは今年3月にできたお酒なので、 ちょうど半年くらい経ったところです。 |
―― | 半年経ってもこれだけ力強い味なんですね…すごい。 ちなみに、このお酒を造った蔵元さんは 創業が元和年間となっているんですが。 |
高橋 | 元和は徳川幕府の頃ですね。 歴史がある蔵元さんなのですが、 常に時代に合った味を研究していて、 現在4年連続で金賞を取っています。 |
―― | お客さんが好きな味の日本酒を作り続けているんですね。 このラベル、知らない単語が多いので どんどん質問してしまうんですが、 「無調整」というのは… |
高橋 | 無調整は原酒と通じるところがあって、 先ほど絞った後に水を加えることについて話しましたが、 他にもアルコールを足して味を調整したりするんですね。 無調整はそういったことを全くせず、 絞った後に何もいじっていないということです。 |
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―― | 本当に、ラベルを見るだけでいろんなことがわかりますね。 |
高橋 | 色々と情報が入ってくるんですよね。 |
―― | 裏のラベルにある洗米の部分を見ると 「手洗い」と書いてあるので、 本当に手をかけてるってことですよね。 |
高橋 | みんな手洗いのときって上半身裸でやるんですよ。 服とかに付着物がある可能性がありますし。 しっかりと身体を洗って、 夜明けの一番寒い時間に仕込みを始めるんです。 そんな環境下の作業だと、考えるだけでぞっとしますよね。 で、手洗いといっても 手のひらだけで洗える量じゃないんで、 身体全体を使って洗うんです。 ちょっと想像できない世界です。 |
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―― | それだけ力を入れて作っているから 美味しいんでしょうね。 ちょっと横道にそれてしまったので 出羽ノ雪の話に戻るんですが、 これはどんな飲み方がおすすめですか。 |
高橋 | 出羽ノ雪の飲み方は 自分の中でも模索しているんですけど、 和食より洋食のほうが合う感じがします。 甘さも強く、結構口の中に味も残るので チーズ系はよく合います。 |
―― | 温度についてはどうですか。 |
高橋 | 今飲んでいるのは常温に近い状態なんですが、 冷やにするともっと甘さが増して 「なんだこれは」と驚くと思います。 ただ、冷やだとすっきりしすぎるところもあるので、 物足りないと感じる方は少しずつ温度を上げて 楽しんでいただければと思います。 常温から35度くらいが一番米のうまみを楽しめますね。 |
―― | なるほど。 ちなみにラベルには「要冷蔵」と書いてあるので、 保存するときは冷蔵庫に入れておくのが良いんですね。 |
高橋 | これは生酒なので、中にいろんな菌が生きているんですよ。 なので常温で保存すると味を殺す菌も増えてしまうので、 必ず冷蔵庫で保管してください。 ただ、「要冷蔵」と書いてあると 冷やで飲まないといけないと誤解する方がいるんですが、 全くそんなことはなくて。生酒でも吟醸酒でもそれぞれで 冷やがいいのかぬる燗が良いのかは全く違ってきます。 なので「要冷蔵」と書かれていても、 そのお酒を一番美味しいと感じる温度で 楽しんでもらえればと思います。 |
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―― | 保存の仕方はしっかりと守って、 飲むときは自由に楽しむということですね。 今日はたくさんのことを教えていただき ありがとうございました! |